今までに国内90以上の島を旅した“島ライター”の有川美紀子さん。
屋久島には今まで2度訪れたことがあるそうです。過去に他の島でのワーケーション体験もあるそうで、では屋久島でもぜひにということで今回体験してもらいました。さて、屋久島でワーケーションしてみたらどうなる? 有川さんの感想は?
今回は1万字近い超大作!ワーケーションの行程や体感したことが中心の前編と、宿や美味しかったもの中心の後編でお伝えしていきます。
目次

私はフリーランスのライターです。PCとネット(と、資料)があればどこでも仕事ができると言えばできます。
いわゆるライスワークは別として、ライフワークは島を舞台に人と自然のつながりを書くことです。今まで自然保護に力を注いでいる人や、ジオパーク設立に尽力した人、第一次産業に取り組む人、島の希少種などについて取材してきました。
これまで国内外90以上の島を旅して、特に小笠原とは縁が深く30年来通い続け、そんな名称もない頃からワーケーションもしてました。島についての文章を書き続けるなら一度四季全部を知らなければ分からないことがあるだろうと、小笠原・母島に住民票を移して1年半移住していたこともあります。今まで小笠原の本は5冊ほど書いています。
島ってワーケーションと相性がいいのではないでしょうか。
海で物理的に隔離されているので、橋でつながってない限り、どんなに本土に近くても、いったん天候が荒れるとどの手段を使っても帰れなくなるということはよくあります。
つまり、気分として日常と切り離されやすい、そして帰れなかったらもうしょうがない、誰も手出しできない、みたいなところがあるから。
屋久島は今までに2回行ったことがありました。だけど、自分の中での島の全体像(こんな島だよと人に語れる像)はまだ明確ではなかったです。あまりに大きくて、南でありながら雪も降る。海が広がっている一方で1000メートルを超す山もある。自然と人の関わりという点で言えば屋久杉を中心にして、古くからどのように自然を使ってきたかというルール作りを知るにはすごくいい場所でもある。
……というようにあまりに要素が多すぎるために、まだ全体像がぼんやりしている状態だったので、今回行く機会を得たことで、もう一度屋久島を身体と心両方で感じてみたいと思いました。
さて、今回4泊5日の行程全部をいったん書き出してみたのですが、あまりに長く饒舌になってしまったので、ポイントを絞ってご紹介します(の、割にはやっぱり長くてごめんなさい! 好きな項目だけ読んでください)。

小原比呂志さん
屋久島野外活動総合センター(YNAC)のネイチャーガイド。自然から歴史、雑学、屋久島の裏話まで博覧“狂”記なお方。近年は古文書も翻刻し、屋久島の歴史にますます入り込んでいる。一緒にいるとずっと何かを語っているのでだいたい半分ぐらいは聞き逃す。
ゲキさん
同じくワーケーションモニター。「山と溪谷」に28年間マンガを連載している元祖山ガール。
島田昭彦さん
同じタイミングで屋久島を訪れていた京都おもてなし大使。京都市動物園リニューアル、伊右衛門サロンやエースホテルやそのほかもう、すごいことと地域の伝統をコラボさせるすごいことをいっぱい手掛けているプロデューサー。
海でも山でも食事でも、小原さんの名(迷)トークは一聴の価値アリです。
1日目

この日は序章という感じで、日中はあちこち連れて行ってもらい、屋久島シーサイドホテルで撮影をしたりしてあっという間に時間が過ぎて。夜、宿でメールチェックと返信、行動記録を書いただけでもう11時過ぎてしまい、ベッドに爆沈。
2日目
地形が非常に面白い海岸は岩場が中心ですが、こういうところには海外からのゴミとかでかい浮きとかが漂着していることが多いもの。また、満潮線あたりには漁網や木のクズに混じってモダマなど木の実が寄っていたりするので、朝ごはんまでの短い30分ほど海岸を歩いてみました。
かなり波あたりが強そうな海岸で、岩が波で擦れあったのかパッカリ割れているものなどもあり、満潮線もかなり上の方(陸側)にありました。
中国の豆乳パックや洗剤の袋、カエル浮きと呼ばれる漁船の浮き、なにかの卵塊らしきものなど。時間があればおもしろい木の実とかありそうな匂いがしました。


この漢詩のような名称にずっと憧れていましたが、来島3回目にしてやっと訪れることができました。
スタートが遅かったので「苔むす森」まででした。
よく整備されている道なので一人で歩いている人もたくさん見ました。
私は小笠原の土を歩くときにすべらず愛用しているSCARPAのハードソールを履いていったんですがこれが失敗でした。白谷雲水峡は岩ゴツゴツのような道が多いので、ものすごく歩きづらかった。場所に合わせて靴も変えないとダメですね。
それはともかく、お昼ごはんを買うときに「水はいらないよ」と言われてそうなのか、そんなに水があるのか。しかも飲んで大丈夫なんだ……と驚いたのですが、確かに水はいらないです。でも! カップはいります……。カップまたは小さい空きペットボトルは持っていきましょう。手ですくって飲むのは限界があります。
ここで初めて、屋久島の森・水・苔のつながりを実感しました。本当に、どこにも水があり、倒木や岩にフッサフサで水の玉をつけた苔・苔・苔、その上に乗っかって生えている杉。
100分の1ぐらい小さくなって、苔の森を歩いてみたくなりました。






写真ではあの幽玄な感じは再現できない! 例のアニメのモデルと言われる苔むす森です。コダマの人形を連れてきて写真を撮りまくっている女子がいました。
ところで白谷雲水峡は何箇所か水が流れている場所を渡りますが、天候によって行きは渡れたのに雨が降って帰りに増水し、無理に渡って遭難する人も多いそうです。こんな自然の中に入るときは人間が自然の都合に合わせて遊ばせてもらうしかないですね。

屋久杉が銘木であることは古くから知られ、戦国時代には島津家が屋久杉を伐採し始めるようになったそうです。江戸時代の島津氏の年貢は屋久杉だったという話。すべて手作業で巨大な杉を切って運べる形にまた切って、担いで下山するのはどれほどの労力だったでしょう。
杉が大股を開いたように真ん中に穴が空いているくぐり杉という杉もありましたが、倒れた杉の上に新しい杉が育ち、死んだ杉が朽ちてその部分が穴になったのだそうです。
そういう姿を見ると生きるとか死ぬとか何? って気持ちに少しなります。生きるも死ぬも次の生命に飲み込まれて新しい形で生きていくなら、死ってないのでは。
3日目
南部へ移動しました。山から崩落してきた(?)花崗岩の巨石を庭石のように飾っている吉田集落を見たあと、アカウミガメの産卵地として有名な永田のいなか浜へ。
ここでまたプチビーチコーミングしました。1日中いたかった……。いろいろ探しがいがありそうな海岸です! 目の前に口永良部島が見えます。
浜の砂全体がくだけて小さくなった花崗岩。美しい。

たぶんムクロジ、イモガイ、モモタマナ、ヒメルリガイ、砂、よく拾うけど名前を間違うと恥ずかしいので省略の二枚貝たち。

さすが鋭い目を持った小原さんがヒメルリガイを見つけてました。
西部林道へ。
そして、あまり訪れる人もいないというアコウの大木がある森に行き、またも水と森のパワーを感じました。

さすが榕樹、倒れても気根が延びて本体を支えています。しかし、これはまだ序盤で、次に案内されたのは……。
もっと大きなアコウ。気根のこんがらがりが凄まじく、なぜかインドのカジュラホーのエロい彫刻を思い出してしまいました。

オオタニワタリがドカンと着生しています。「オオタニワタリの新芽はおいしい」と何度もいう小原さん。小笠原でもかつて食べていたと聞いた。あっちはシマオオタニワタリだけど。


少し移動してお昼を食べました。
そのときに小原さんが淹れてくれたコーヒーが美味しすぎました。
昼ごはんに鳥刺しを食べているゲキさん。「鳥刺しがあれば何もいらない」とまでハマっていました。

液体が流れた跡がついている石がありましたが、それはヤクザルが座っておしっこしたあとだと聞いてびっくり。
ツチグリかと思ったら植物だったヤッコソウは、蜜を分泌する……と聞いてへーと思っていたら、写真にアリンコが写ってました。なめてた?(ピンぼけ)
このあと、ヤクザルとヤクシカにも会いました。
どっちも小作りでかわいい。それが特徴だそうです。ボスっぽい態度のでかいオスのうしろに大きさでは遜色ないオスがいて「闘いに負けたからちょっとひねくれているんでしょう」と小原さん。
サルたちは人間を見慣れているのかこちらを気にせず毛づくろいしたり、親子でくつろいだり、何か食べていたりしました。サルは本当に見飽きない。見ているうちだんだん、擬人化してストーリーを作り出したりしてしまいますね。あいつとあいつは恋人だけど、お腹にしがみついている子ザルは別のサルの子で……とか。
4日目
この日は「仕事日」にしようということになり、山などには行かないことに。
この日のハイライトは……モッチョム岳を見ながらの入浴!(宿の項目に書きました)。

同行の島田さんが京都芸術大学で行っている授業をモッチョム岳見ながら開催。小原さんも参加しての講義は学生さんにも刺激になった様子。これぞリモートワーク、ワーケーション。
授業が終わってクラフトビールを飲む島田さん。お疲れさまでした。
最終日
ついに最終日。
偉人の足跡をたどりました。
歴史の勉強を怠っているため間違いがあったらすいません。
200年近い間、遣隋使〜遣唐使を送り続け、大陸の文化や技術、思想を学ぼうとしてた日本ですが、日本の一部の僧が私利私欲に走ったりしていたため、朝廷では戒律を授ける指導者として鑑真和上を招こうと考えました。何度も依頼したけど中国にとっても大事なお坊さんなのでなかなか許可が出ず、また、本人も行こうとしたところを弟子に留められたりなどして招聘は簡単ではなかったようです。いざ、行くことが決まっても当時の船では唐から日本に行くのに何度も遭難するなどして、その間、失明までしてしまい、ようやく6回目にして来日できました。唐にバレないよう、ほとんど密航のようにして乗り込み、沖縄に到着したのち奄美大島を経て屋久島に上陸したのだそうです。
そこがミヤカタの浜。このとき、唐から出帆した船4艘のうち、屋久島にたどり着いた2艘のうち1艘に鑑真和上、もう1艘には吉備真備が乗っていたということです。
それぞれ標柱が立っていましたが、仮にもその後、聖武天皇に戒律を与え唐招提寺を造った偉人ゆかりの地としてはもうちょっときちんと案内板など建ててもいいのではという気がしました。もちろん吉備真備だって……。吉備真備というと手塚治虫の「火の鳥・鳳凰編」に出てきたお猿っぽい顔が浮かんでしまうけど、すごいエリートだったんですよね……。
ちなみに鑑真和上はこのとき蘭奢待という香木を持ってきたそうです。お香の文化はそれまで日本にはなくて、鑑真和上によってもたらされたということです。蘭奢待は「麒麟がくる」にも登場してましたが、結構巨大でしたよね。伽羅の香木とのこと。現物は正倉院に納められているそうです。普通の伽羅と桁違いに香りが素晴らしいんでしょうね。嗅いでみたいものです。

その後はお昼を食べたり、安房川のほとりで川を眺めたり、ぽんたん館やぷかり堂などのお土産物屋に寄るなどしてタイムアウト。
16:30、満席のJACに乗り込み、屋久島を去ったのでした。なんと短かったことか。
で、WorkationのWorkは……えーと(汗)。
最低2週間ぐらいは必要かも!
4泊5日では、1日仕事日にしたとしてその日がものすごくいい天気だとぜったい尻の落ち着きが悪い。そわそわしてしまう。
今回泊まった宿も長期滞在プランを設定しているところも多く、せめて10日、できれば2週間ぐらいいて、自分の体調と仕事のペースで遊ぶ日・仕事する日を決めるといいのではと思いました。
また、島が大きく移動の時間が結構取られるので、午前は遊び・午後は仕事みたいな過ごし方をしようと思うと、それぞれ予定より+1時間ぐらい余裕を見ないと難しいかもです。
自炊なら別ですが、ご飯や入浴の時間が決まっている(9時までという宿が結構あった)場合には、ひたすら集中してその後に風呂という自分ペースでの配分は難しく、決まっている時間に合わせて逆算して仕事しないとならないです。
(でも、いつも 9 to 5 のような働き方をしている人なら決められた時間配分で仕事するのに慣れているだろうから、大丈夫かもしれないですね)。
私のようなフリースタイルな仕事の仕方だと、島と仕事、両方充実させたかったら長期に滞在して、無駄な時間があっても良し、という気持ちの余裕がないとどっちも中途半端になるかもしれないと思いました。
私が住んでいる横浜では、気分転換とずっと座りっぱなしの下半身を動かすために散歩をしてもせいぜい横浜港がある程度で、風景はどこまでいっても都会です。やっぱり、リフレッシュって自然の中でするもんだと思います。
空気、風、におい、景色、なによりずっと1メートル以内のモニター画面しか見ていない眼球の筋肉を果てしなく遠い焦点に合わせたら頭痛も肩こりも治るってもんです。
原稿書きに煮詰まったときに視線の向こうにモッチョム岳があったら、しばらくはぼーっとしてしまうかもしれませんが、頭の濁りはスッキリ取れると思うのです。
都会だと情報量が多すぎです。いったん仕事から離れて頭をクリアにしようとしても、別の情報がバンバン入ってきて「買いたい」「食べたい」「見たい」「飲みたい」など欲望が噴出し、思考がとっ散らかってしまいます。
一度空白にするにはやっぱり、自然の中が1番だと思います。
水。
どこに行っても必ずそこにある、澄み切った水とその流れ。
屋久島が大きな生き物だとしたら山頂から浜まで、降り注ぎ流れ海に戻りまた降り注ぐという大循環をしている水こそが、屋久島を生命の島と言わしめている根源だと感じました。
こんなに大量の水が途切れることなく流れ、生命を育んでいる島があるでしょうか。
今まで、山に入るときに水を持っていかなくていいと聞いた島は2つしかありません。御蔵島(伊豆諸島)と屋久島です。しかし周囲16.4キロ、標高851メートルの御蔵島と、周囲130キロ、標高1935メートルの屋久島ではスケール感が違います。
大きな島なのに屋久島のどこでも少し歩けばすぐ水に突き当たります。それは小さいせせらぎだったり、安房川や宮之浦川のようなとうとうと緩やかに流れる(ときには轟々となるでしょうが)川だったりします。
その水は、ほとんど濁っていない透き通った流れです。これもあまり他の島では見たことがありません。屋久島という大きな生命体の血管のような水、その途切れない循環こそが屋久島で最も感動したことでした。1日中、水の流れる音を聞ける森の中で、自分もじっとその場に溶け込んで石や木の一部となってしまいたい、そうしたこの汚濁とストレスが溜まった身体が生まれ変わるのではないかと思いました。そういう日が1日、次の日は仕事。そんなワーケーションしてみたい……。
もちろんこれは私の実感なので、人によって「屋久島の魅力はこれ!」という内容は異なるでしょう。
後編へ続く!

島ライター、横浜在住。 国内外90以上の島をめぐり、 特に小笠原と縁が深く30年以上通い、5冊の著作あり。 屋久島も小原さんに案内してもらい、今回で3回目。 実に20年ぶりの来島。

