【特別企画】小原とコムアイさんの対談を公開しました

【前編】屋久島であの言葉を聞かなかったら『屋久の日月節』は生まれなかった

YouTube Originalで配信されている『Re:SET』の撮影で、水曜日のカンパネラのコムアイさんたちチームを屋久島の森に案内した小原比呂志。コムアイさんのチームは、小原の導きによって、屋久島のイメージがぴしっと決まったといいます。
コムアイさんたちにとって、ネイチャーガイドとしての小原比呂志はどのような存在としてその目に写ったのでしょうか。そんな二人が再び出会い、撮影時のこと、そのときには語られなかった島のことを対談していただきました。

 

水曜日のカンパネラと屋久島のコラボ作品
YouTube Originalで『Re:SET』として公開。Vol.1,2は無料配信(3以降はYouTubeプレミアム登録が必要)。

 

「ねじれた島」という言葉から生まれたイメージ

小原:今日はよろしくおねがいします。

コムアイ:はい、屋久島ではお世話になりました。おかげさまで無事に作品も出せました。

小原:『Re:SET』やEP『YAKUSHIMA TREASURE』と『屋久の日月節』のMVもですが、1年後に文化庁のプロジェクトで制作したという『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE』はまた、びっくりしました。すごいものが出たなと。過去の水曜日のカンパネラ(以下、水カンと略)とは全く違うイメージで。
今回はいろいろお聞きしたいんですが、まず屋久島に来ることになった転換期のこと。『Re:SET』の Vol.1 でいろいろ語ってますよね。2017年の武道館ライブのあとに「こんなことやってる場合じゃない、次はもっと大きなところでやろうとか、そういうレースじゃなくなってしまった。自分でもこんな転換がくるとはおもわなかった」とか。

コムアイ:はい、そうですね。

小原:今日お話するために、改めて水カンの曲を全部聞き直してみたんですよ。

コムアイ:えっ、わざわざ申し訳ない。私にとってはやったものから過去になっていくので、聞き直すなんてしていただかなくても良かったのに。

小原:いえいえ。まずは聞いてみました。そうしたら『ガラパゴス』まで聞いたところで、あの中の『愛しいものたちへ』で、あれっ? って、ここでぜんぜん違う音になってるなって思ったんですが。

コムアイ:小原さん、さすがですね、あの曲だけオオルタイチ(*1)さんが作っているんですよ。歌詞も。
あそこで、水カンでやっていた人名縛り(*2)やめたんです。

*1 オオルタイチ 音楽家。水曜日のカンパネラには『ユタ』『愛しいものたちへ』を提供。『YAKUSHIMA TREASURE』プロジェクトではコムアイとともに屋久島を訪れ、自然の中から音をすくい上げて作品に落とし込んだ。
*2 水曜日のカンパネラは、2018年まで『桃太郎』『一休さん』『アラジン』など人名をタイトルにした歌が多かった。

 

小原:ああ、なんかあそこで視点ががらっと変わった印象を受けたんです。やっぱりそうでしたか。あと『キイロのうた』もちょっと違う感じがした。

コムアイ:『キイロのうた』は、私が書かせていただいた曲です。うーん、小原さんのセンサー鋭すぎです。あのへんからルールから溢れちゃったのが見えるかもしれないですね。

小原:その転換点に選んだ場所がなぜ、屋久島だったんでしょうか?

コムアイ:これはほんとたまたまなんです。
あの時、YouTubeから「何かとコラボレーションして、一緒になにか作って欲しい、曲、ミュージックビデオ、作る過程のビハインドシーンみたいなものを6〜7回ぐらいのストーリーにしたい」という企画が来たんです。

私は鎌谷聡次郎監督が撮ったオオルタイチさんのミュージックビデオがすごく好きだったので、この2人にお願いしました。そしてみんなで話しているときに鎌谷監督が「コラボの相手は人や団体じゃなくて、山とか島とかそういうのがいいんじゃないか?」って言ったんです。私が一人の人間として自然と取っ組み合って相撲をとってるイメージが思い浮かぶって。

屋久島が出てきたのは偶然で、プロデューサーの方が行ったことがあるだけでした。でもみんなの中にありますよね、屋久島像って。苔むした、屋久杉の深い森の印象。屋久島に行ってインスピレーションもらえないわけない! ってなって、ほとんど直感で決まった感じでした。

小原:おお、そうだったんですね。

コムアイ:他の事情で言えば、YouTubeは外国の会社ですから、目的地として「世界自然遺産の島」というのは説明しやすい。企画として、すぐ行ける場所じゃなく、行きづらい場所であることも逆にピッタリで、すんなり決まったんです。

 

たくさんの話をしながら歩いた、ヤクスギランド

小原:来てくださって、あの素晴らしい作品が生まれたわけですが、屋久島のどこからインスピレーションを得たんでしょうか。

コムアイ:これは、小原さんがいなかったら生まれませんでした。

小原:え? 僕はお役に立ってましたか?

コムアイ:小原さんと出会えなかったら、曲もだし、ミュージックビデオもだし、EPもできなかったしすべて。
屋久島を歩きながらいろんなヒントを拾い集めていく中で、小原さんに出会えたことが作品作りをブーストしてくれたんです。

小原:本当ですか。どんなところでお役に立てましたか?

コムアイ:「これでいける」って思ったのは小原さんが「島がねじれている」って話をしてくれたときです。
「ねじれ」って、遺伝子の構造もねじれているし、花が開いて咲いていく時もねじれていますよね。そういうことが全部スッと入ってきて「生きるエネルギーがねじれながら前進している」っていうイメージが、私たちの中にバーッと生まれたんです。
生命が芽吹いて、育ち、そして死んでいくそのサイクルがねじれながら盛り上がっていくようなイメージで、屋久島の生命を祝うような曲になりました。この時作った『屋久の日月節』の「まわれ屋久の島よ」という歌詞はもうそれそのもののイメージです。
ミュージックビデオでも島がねじれている様子を入れています。

『屋久の日月節』にうたわれている大川之滝

小原:島の地形ですね。宮之浦岳から尾根が何本も時計回りに捩れるように派生して風車みたいな形になってるという。あのとき、火山の話もしましたね。

コムアイ:あの話もすごく重要で……。薩摩硫黄島の鬼界カルデラが噴火して、一度屋久島は焼かれてすべて消えたけどまた生まれ変わったというお話を聞いたものが、歌詞の「マグマの海を浴びて すべて灰と清め 再び息吹きねじれ空へ」という部分になっています。屋久島の再生のエネルギーや力強さをすごく感じる話なので、そのイメージでタイチさんが歌詞を書いてくれたんだと思います。

小原:ちょっとは役に立ったみたいですね。

コムアイ:いやいやいや、とんでもない、小原さんいなかったらこういうイメージ生まれなかったです。
ただ島に行って森に入っても、混沌とした自然があって、どこから理解を深めたらいいか、とっかかりがつかめないじゃないですか。
小原さんは植生のことから、季節が変わると森がどうなるか、苔と植物それぞれがどう繋がっているか、足元の石と石が混ざっていってそれが島をどう作っているかとか、地質的なことから民俗学的なことまで、いわば屋久島の翻訳者として私たちが分かる言語で紹介してくれました。だから話し全部に耳をそばだてて、聞き逃すまいとしてました。そこから私たちに火が着くようなヒントがいっぱい見つかったんです。

 

『海に消えたあなた』『殯船』
芸能が昔から「無念な思い」を昇華させ弔ってきたように

小原:アルバム『YAKUSHIMA TREASURE』に、『海に消えたあなた』っていう曲がありますよね。
あれを聞いているときに不思議なことがあってね。うちの上空をヘリコプターが飛んだんです。島でヘリが飛ぶのは、よっぽどめでたいことか、その逆。遭難があったとかね。
曲を聞いているときに飛んだヘリは、海で行方不明になった方がいて、そのことで飛んでいたらしいんです。

コムアイ:えっ! 本当ですか?! 行方不明に……?
あの曲は、まさにそういう歌なんです。海に大切なもの……夫とか、息子とかを奪われてしまって、悲しいけれども海はそのままでいい。海を恨んでいるわけではない。荒々しい海に私たちは恩恵をもらって生きているから、それでいいんだけど、でも今はちょっとだけ泣き言も言わせてほしい……そんなイメージが浮かんできて即興で歌ったものです。

小原:なんと、そのままじゃないですか。

 

矢筈嶽神社

コムアイ:この曲ができたきっかけは、矢筈嶽(やはずだけ)神社なんです。この曲の声はあそこで録音しました。
何度か出向いたんですが、なぜかいつも、ものすごい暴風が吹いていたり、大雨が吹き付けてたりすることが多くて。風の音も、ちょっと不気味なぐらいのすごい音がして。
「ここは特別な場所だな」という印象でした。晴れやかというより、暗くて波が打ち付けてきて、漂着物が寄ってきそうな感じ。そういう場所にはすごく惹かれるんです。日本は来訪神を信仰する国であり島だからかな。漂着物に不思議な霊力が宿っているという考えが私たちの根底にあるような気がするんです。
矢筈嶽神社にはお社の奥に洞窟がありますよね。覗いてみたんですけど、真っ暗な……真っ暗以上に何かが渦巻いている感じがして、よく見えないけど何かが口をぱっくり開けているようなイメージを受けて、だから蓋をするためにここにお社があるのかなと感じました。

小原:異世界への扉とかね。

コムアイ:そこで、ちょっとクルーのみんなには遠くにいてもらって、タイチさんとおそるおそる、そこで感じたことを歌ってみたら、さっき言ったような曲のイメージが自然に湧いてきたんです。
なんていうか、そういう「無念な思い」は歌で昇華しやすい。芸能って昔から、ネガティブなエネルギーや弔いの気持ちを成仏させて浄化させて良いエネルギーに転化させて来たものだと思うんです。

小原:いわば弔いの歌のような……。
洞窟は、あちら側の世界につながっているという概念は結構ありますね。南九州の神社で洞窟系の話は結構あちこちにある。
古事記なんかでもそうですが、洞窟はいわば黄泉平坂よもつひらさか(あの世とこの世の境界)の奥の方みたいな感じで、人が亡くなると洞窟に葬って、生きた人は近寄らなくなるような。
でも、矢筈嶽神社の洞窟は、種子島とつながっているという伝説があるんですよ。

矢筈嶽神社の洞窟

コムアイ:そうなんですか?!

小原:あの洞窟の奥には、人は入れないけどネコなら入れる隙間が見えているんですよ。
種子島にも海辺沿いにいくつも洞窟があって、熊野神社の近くの洞窟でネコを放したら、矢筈嶽神社から出てきたという話があるんです。

コムアイ:おもしろい、あの世とかではなくて他の島につながっているというのがなんとも。
ほかにも『YAKUSHIMA TREASURE』の歌でいうと、『殯船』も、小原さんから伺った話がヒントになっていて……。

小原:屋久島の、船と死の関係の話かな。
御船岳の。

コムアイ:そう、そうだったと思います。

小原:御船岳の話は、ある人が山に行ったとき深い霧に巻かれて、訳が分からなくなってしまって、ふと視界が開けたら池があったと。そうしたら、そこに帆掛け船がたくさん浮かんでいたという。恐怖を覚えて必死になって命からがら帰ってきたんだけど、結局死んでしまったという話です。この山が御船岳だったらしいという。

コムアイ:そうそう、その話。御船岳か。私、翁岳だと思ってました。

小原:それは、古い時代に言われていた御船岳を、翁岳のことだと言った人がいて、それが定着しているから。でもこの辺不思議で、御船=オフナって書いたら媼、おばあさんになるんですよ。なのに、なぜかそのうちその「媼」が「翁」の字を当てるようになって、翁(年取った男)なのにオンナダケって読んでいたこともあるんです。

コムアイ:なんかめちゃくちゃですね!(笑)

小原:どうも屋久島では船は「死後の世界へ行くときの乗り物」というイメージがあったみたいです。
死後のイメージって、昔だとよくどこかから念仏が聞こえてきて、だんだんあっちからもこっちからも念仏が響いて……みたいなのありますよね。
屋久島だとそれが、この話のような「船がたくさんいる景色を見る」になる。
似た話はもう1つあって、たしか一湊の人が宮之浦で呑んで、いい気持ちで夜道を歩いて帰る途中、ふと入江を見たら船がいっぱい止まっていたんですって。夜中ですよ。それで、あまりの恐ろしさにそこで気を失ってしまったって話なんです。

コムアイ:うわあ、それも怖い。その船、どこに行くんだって感じ。

穏やかな宮之浦港

小原:それから「先島丸」の話はしたかな。屋久島ではお墓にお骨を入れるときに、仮屋(霊屋たまや)という小さい小屋を作るんですが、ここに船の絵を描くんです。その船を先島丸というんです。
先島とはどこか。いろいろな解釈があります。西方浄土のことだという人もいるし、僕はひよっとして八重山の先島じゃないだろうか?って、ちょっと思ってるんです。でも分からない。
背景には、弥生時代の日本には、船葬はあったらしくてね。
死んだ魂が船であの世に行くのなら、生きている間にそれをやってしまうのが補陀落渡海ふだらくとかい(*3)ですね。

コムアイ:ああ、補陀落渡海! タイチさんと最近、熊野にもフィールドワークに行かせてもらっていて、先日は補陀洛山寺で復元された渡海船を見てきました。結構、強烈な経験でした。

*3 補陀落渡海 南方彼方にある補陀落(浄土)を目指し、船出すること。人一人が入れる部屋の中に上人(僧侶)が入り、外から釘でとを打ち付け、出られないようにし、生きながら浄土を目指すという捨身行。船には前後左右に鳥居が建てられており、補陀落船に載った上人はこの4つの鳥居をくぐり浄土往生すると考えられた。

 

小原:いろいろ分かっていなかったり、推測してしまうことは多いですが、そういうもののほうが面白かったり、主張が強くなったりするかもしれない。
花崗岩のでき方の説もそうかもしれない。屋久島は花崗岩の島ですが、そもそも巨大な岩の塊が下からあがってくるって何ごと? ということの解釈が、人によっていろいろなんです。
地質学って、鉱山の研究がルーツの一つなので、体力勝負みたいなところがあるからか、激しいところがあって、いろんな説が出て、ケンカしてます(笑)。でも、花崗岩について共通していわれているのは「岩として周りのものよりも密度が低くて軽いから、浮き上がっているんだ」ということですね。

コムアイ:小原さん「屋久島自体がちょっと浮いている」って話してくれましたが、そのことですか?

小原:そうです。その浮いたときにできた断層みたいなのがあって……。ああ、これは先日「屋久島オンライン」というウェビナーで話したことです。結構意外な話だったらしく、好評でした。

コムアイ:うわあ、それ見たかったです。私たちに立体地図を示して「ここら辺がずれていそうです」とか説明してくれた、あんな話をしたんですか?

小原:アプリを使って3D画像で説明できるんですよ。それを使って「ここに断層があって、どうも屋久島が持ち上がったらしい」とか話しました。「難しい」という人もいたけど、おおむねおもしろがってくれたみたい。

屋久島オンラインウェビナー より

コムアイ:めちゃくちゃおもしろいですよ。見たかった!

小原:このワーケーションの事業の一環でアーカイブする予定なので、できたらお知らせしますよ。

コムアイ:ぜひお願いします!

 

後編へ続く!

【後編】行かなくても想像するだけで自然と一体だった頃の人間の記憶が甦る。それが屋久島

 

文章:有川美紀子

コムアイ

水曜日のカンパネラ ボーカル。1992年生まれ。国内外のフェスに出演し、大きな反響を得る。もともと各地の民俗的な側面に興味を持ち、近年アイヌ文化や南インド音楽にもアプローチしている。和歌山県熊野を舞台にしたプロジェクトも進行中。
屋久島には2018年に訪れ、2019年に『YAKUSHIMA TREASURE』として成果を全6曲のEPでリリース。収録曲『屋久の日月節』(やくのじつげつぶし)は鎌谷聡二郎によるミュージックビデオにもなる。屋久島で感じたことや制作の過程は映像化され、YouTubeオリジナルで『Re:SET』として全7話で公開されている。

水曜日のカンパネラ 公式サイトhttp://www.wed-camp.com/

コムアイ Instagram アカウント@kom_i_jp

 


水曜日のカンパネラと屋久島のコラボ作品
屋久島と出会い、作品を作っていく過程をドキュメンタリー化した『Re:SET』は全7回でYouTube Originalにて配信されている(Vol.1,2は無料配信、3以降はYouTubeプレミアム登録が必要)。またEP『YAKUSHIMA TREASURE』(全6曲。各音楽配信サイトで販売中)とMV『屋久の日月節』(やくのじつげつぶし Re:SETのVol.7として配信されている)も誕生した。さらに2021年には文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」の1つとして再び屋久島とコラボした『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE』(配信終了)も発表された。